うつりというもの

広田は、先祖代々伝えられていた事から、これがうつりの仕業だと思った。

一度そう思ったら、もう疑う事はなかった。

広田にとって、うつりは妻の仇であり、退治するものになった。

先祖代々伝えられてきた事で少しはどういうものかを知ってはいた。

うつりは、人の頭部を切り落として入れ替わる妖怪か悪霊のようなもの。

切り取られた首が新しいうつりになって、次の人を襲う。

それは終わりがないということだった。

それも最初が女性だったからなのか、その被害者は女性に限られていた。

うつりを防ぐには家にうつりを入れないことが必要で、そのために被害のある地域ではうつり除けが付けられていた。

もちろん、外で襲われたらどうしようもない。

先祖の絵師広田恒貞は、そのうつりに妻を殺された。

妻を殺されるところをその目で見た恒貞は、それを絵に描いて、近くのお寺に供養のために奉納していた。

絵にその存在を写し込んで封印するという意味もあった。

奉納した絵は、その後盗まれて行方が分からなくなっていた。