50年前 世田谷西警察署


「奥さんで間違いない?」

「はい…」

広田三郎は、警察署の遺体安置室で妻の遺体を確認した。

妻和子は、鉄パイプのベッドの上に横たわり、白いシーツが掛けられていた。

刑事が、そのシーツを少しめくって、顔だけが見える様に広田に見せていた。

広田は、その場で泣き崩れた。

「おい」

ドアの所の壁に立っていた年配の刑事が、シーツをめくっていた若い刑事に声を掛けた。

声を掛けられた若い刑事はシーツをまた顔に掛けると、年配の刑事と二人で部屋を出て行った。

広田は、そんな事は関係なく、大きな声で床に手をついて泣き喚いていた。

広田は、妻が殺されたと聞いて、その遺体の確認に呼ばれたのだった。


一人になってしばらく泣き喚いていたが、思いっきり泣くと少し冷静さも出てきたのか、ふと思い出した事があった。

刑事は首を切られて殺されたと言った。

広田はうつ伏せていたぐしゃぐしゃの顔を上げた。

「まさか…」

広田はゆっくり立ち上がると、白いシーツを掛けられて横たわる妻を見た。