「あの、そのご先祖様というのは、もしかして、広田恒貞という青森の絵師ですか?」

「あ、そこまでご存知なんですね」

「え!やっぱりそうなんですか?」

教授も驚いた。

「ええ、広田家は元々青森の出らしいんですけど、その恒貞という絵師の奥さんが殺されて、その時の状況を絵にしたとか。父はその絵も探していましたね」

「そうなんですか」

「それで、お母さんは本当にその妖怪に殺されたんですか?」

遥香が聞いた。

「わかりません。私が2才の頃なので」

三和は軽く苦笑した。

「ただ、父がその妖怪のことを仇の様に探し回っていたので、馬鹿げたこととは思えませんでした」

遥香と教授はまた顔を見合わせた。

「ところで、そのうつりに関する原稿とか、資料とか拝見することはできますか?」

教授が真剣な表情で言った。

「いいですよ。私はあまり触りたくなかったので、そのままにしていますから」

「ありがとうございます」

彼女は教授達を書斎に案内した。

それなりに片付けられていたが、確かに、タイトルに『うつり』と書かれた物がたくさん本棚に並べられていた。

机の上には、日記らしい物だけが数冊載っていた。