「それで、何をお知りになりたいんでしょうか?」

三和は教授達の前にお茶を置きながら聞いた。

「はっきり言って、知りたいのは『うつり』という妖怪のことです。お父さんが書かれていた『うつりというもの』という本の事を聞きまして、詳しいんではないかと」

「そうですね。父は詳しかったと思います」

「え?」

「もしかして、もうお亡くなりになったのでしょうか?」

「ええ。かれこれ2年になりますか。自費出版しようとした出版社が潰れて本が出せなくて、そのすぐ後に」

「えっと、死因は?」

教授が少し心苦しそうに聞いた。

「心不全です。まあ、もう80でしたから、寿命を全うしたとも言えるでしょうけど」

「そうですか…」

「その、三和さんはうつりについて何か知っていますか?」

遥香が言った。

「いえ、あまり。怖いのは嫌いなんで」

「そうですか…」

「まあ、知っていると言えば、うちのご先祖様の奥さんと、うちの母がその妖怪に殺されたと父が言っていたことでしょうか?」

「え!?」

遥香と教授が顔を見合わせた。