「急に訪ねてしまって、すみませんでした」

遥香は玄関で、古川に軽く頭を下げた。

「いやいや、元気そうで何よりだよ」

遥香はその後の古川の表情に気が付いた。

「どうかしました?」

「あ、いや…その、今は、仕事見つかってるのかい?」

彼は言いにくそうに聞いた。

「いえ、まだですけど」

「そっか…、本当にすまんね」

「いえ、今はやりたかったことがあるので、結果的にちょうどよかったんです」

「そうなのか?」

彼は少し表情を明るくした。

「ええ」

遥香もそれに応える様に明るく言った。

「そっか…、あ、じゃあ気を付けて」

「はい。ありがとうございました」

遥香は古川にお礼を言って頭を下げた。

「じゃあ」

古川が笑顔で言った。

「はい」

そして遥香は駅に向かって歩き出した。

少し歩いた先でふと振り向くと、古川が出てきてずっと頭を下げていた。

遥香は、それには気付かないフリをして、少し流れた涙を拭って歩き続けた。


駅に着くと、遥香は教授に電話して、分かった事を話した。

「本として出そうとしていたくらいです。もしかしたら、うつりを調べていた人かもしれません。私、家に行ってみます」

「分かった。俺も行くから途中で落ち合おう」

「はい」

遥香と教授は一番近い駅で待ち合わせることにした。