彼は、しばらくしてA5サイズの手帳を持ってきた。

当時、古川が使っていた手帳だった。

「ああ、これだね。『うつりというもの』だ。えっとね、依頼者は広田三郎さん。住所は世田谷だね」

老眼鏡を掛けた古川が顎を上げながら言った。

「え?世田谷?」

「ああ、ほら」

古川がそのページを遥香に見せた。

その住所は最初の事件現場に近い住所だった。

遥香はその住所を自分の手帳に書き写した。

「どうしたの?」

「いえ、ふと思い出したんですけど、その後出版されていたら読んでみたいなと思ったので」

ここに来る途中、検索してみて引っ掛からなかったので、出版されていないのは分かっていたが、ごまかすためにそう言った。

「そうか。そうだな、出てるといいな。迷惑を掛けてしまったから」

「そうですね」

遥香は笑顔で答えた。