翌日の朝方、遥香はまた夢を見ていた。

出版社にいた時の夢だった。


「皆さん、ちょっと集まってもらってもいいですか」

古川社長が総勢で5名の全社員を呼んだ。

遥香も、社長席の前に並んだ。

社長室もないくらいの小さい会社だった。

「頑張っている皆さんには、大変申し訳ないことですが、残念ながら今日でこの古川出版を閉める事になりました」

「え?」

「社長!そんな!」

「どうしてですか!」

古株の社員達が口々に言う中で、遥香はただ黙っていた。

その前日に、裏口で「不渡りになる、そこを何とかお願いします」とか、多分、銀行との会話をしているのを立ち聞きしてしまっていた。

他の社員達が社長に詰め寄っている中で、遥香は、側の机の上の原稿の袋を見つめていた。

自費出版で持ち込まれたばかりの原稿で、これはどうするんだろう?とか、考えていた。

ふと、その映像の中で、その袋に書かれたタイトルに目が留まった。


「うつりというもの…」



「!!」

遥香は、そこで目が覚めた。


「そうだ…あの時の原稿だ…」

遥香は、うつりという言葉に何か聞き覚えがある気がしていたが、それがあの時持ち込まれた原稿で見たのだと思い出した。

遥香は、飛び起きて、すぐに出掛ける用意をした。

古川社長の自宅は川越だった。

まずは一人で行く事にした。

遥香は駅に向かった。