22時頃、東京に着いた。

忍は、園山親子を先に家まで送り、その後、遥香を送った。

「忍ちゃん、本当にお疲れ様。ありがとね」

遥香は運転席から顔を出している忍に言った。

「ちゃん言うな。…少しは役に立ったか?」

「少しどころじゃないよ。大助かり。本当にありがとう」

遥香は窓に肘掛けている忍の腕に両手を載せて言った。

「そっか。じゃあ、遥香もゆっくり休めよ」

「うん。忍ちゃんもね」

「ちゃん言うな。じゃな」

忍は赤いテールランプを4回点滅させながら帰って言った。

「おやすみ」

遥香もそれに答えて家に入った。


表札は「山本」となっている。

母方の祖父の家だ。

「おじいちゃん、ただいま」

「おお、お帰り。東北はどうだった?」

「うん、楽しかったよ。はい、お土産」

遥香は居間の籐椅子に座る祖父、山本善彦にお土産を渡した。

今年70になる祖父には、娘の死も、今回の旅行の目的もごまかしていた。

まだ元気だが、少し物忘れが多くなってきた事もあり、今更、変なショックを与えたくなかった。

だから、葬式にも呼ばなかった。

遥香は、帰るのを待っていただろう祖父に、楽しそうな土産話を話して聞かせたのだった。