「頼むからその話をここでするのは辞めてくれ」



先生は、まわりに聞かれていないかキョロキョロと辺りを見回しながら、小声で注意した。



「あ、はい。ごめんなさい…」



先生が職を失ったら困る。
だけど
どうしてそこまでして
1人の患者を受け入れるのか…



「とにかく、住む事に関しては何も気にするな」


「はい…」



『気にするな』って
もう何度も聞いた。


あたしも住むと決めたんだし
彼女もいないみたいだし?
もうこの辺で諦めてあげようと思う。(え、何様?)




診察を終え
待合室に戻ろうとした時



「咲桜ちゃん」


「はい?」


「ちょっと…」



先生に呼ばれ振り返ると
『こっちに来い』と
手招きされた。

…なんだ?



「当分、帰りが夜中くらいになるから、起こしたら悪い」


「いえ、大丈夫ですけど…」



先生気を使ってくれてるのかな?

あたしの事なんて
どっちでもいいのに。


それにしても医者って大変。
そんな遅くまで仕事するなんて…



先生
体壊さないといいけど…。



彼女じゃないけどさ
心配くらいしてますよ。