そう。当たり前の話なのだ。
今になって考えてみれば……、夫婦がベッドを共にすることの、一体どこに異常性がある?
お父さんとお母さんが、夜な夜な出していたあの声は、叫び声でも泣き声でも何でもない。
ただの、喘ぎ声だったんじゃないか!
お父さんが無愛想だったのも、声が大きかったのも、本当は、もとからの性質だった。
一方的に罵っていたわけじゃない。
あれはふたりの口論だったんだ。
私が勝手に……自分への言いわけのために……お父さんの声が大きいっていう、もとからあった恐怖を利用することで、すべてを誇大して、記憶してしまっていただけだった!
「アイツ」なんて本当は、始めっからいなかった。
お父さんは私に迫る危機とはなにも関係のない、無害な人だった!
それはつまり、お父さんの態度がお母さんを壊した原因なんかじゃ、なかったっていうこと。
じゃあ、それなら、本当の元凶はなんだったっていうんだ?
……そんなのわかりきってるじゃないか……。
今、お父さんがはっきりと、その答えを口にしたじゃないか!
お母さんは、弱っていく自分を圧してまで、育児をお父さんに手伝わせなかった。
それは何故だ?
お母さんは、弱っていく自分を圧してまで、毎夜の宴を繰り返した。
それは何故だ?
そしてお母さんは、壊れてしまってもなお、それらを貫き通そうとした。
それは何故だったんだ!?



