……きついなぁ。今日はホントにきつかった。

夜、布団に潜りながら、ようやく今日が終わることに安堵する。


あの後、柏木くんは茫然自失で、授業中もずーっと机に突っ伏していた。

後ろの席にプリントを配るときも、私が声を掛けてみても無反応なままだった。


でも、私だって、あんな断り方はしたくなかった。

あんなの、自分が言われたら傷つく。


……だから、あの前の段階で諦めてほしかった。


今回の、あの例えは結構上手く言えたと思った。


「――でも、伝わらないんだな、これが」


あはは。何言ってんだろうなぁ。

当たり前じゃないか。

ホントに伝わっちゃったら困るから、ああいう回りくどい言い方にしてるんだから。


……ああ、きつい。


私はもともと、押しの強い人間じゃない。

だけれども、ああいった状況には割とよく陥る。

理由は先刻も申したとおり、私の面《かお》が可愛い、らしいからだと思う。



普通の女の子にしてみれば『可愛い』は褒め言葉だろう。

でも、私に限ってそれは褒め言葉としての意味を成さない。


私、近江雌舞希という人間からしてみれば、面が良くても「意味がない」。

男にもてることも「意味がない」。

だから、オシャレをすることも「意味がない」のだ。


別にこれは自分自身を卑下しているわけではない。

文字通りの意味で、「意味がない」というだけだ。

だからしないし、できればしてほしくもない。


できるかぎり目立たないでいたい。


私の人生において意味のあるものは、お母さんが残した言葉ただひとつ。


「常に危機感を持って行動する」こと。

それだけ。


今回は危機を回避するためには、あの断り方をする他なかった。そう思おう。

だって本当にきついのは、私じゃない。

本当にきついのは、必要ないと、興味がないと、いらないと、切られる方だ。

だから、きついのは、私じゃない。



……私じゃ、ない。