あ、ああ……。
目の前……テーブルの向かい側、手を伸ばせば届く距離に、お父さんが座っている……。
泣きはらした私の口にはずいぶん唾液が溜まっていたが、恐怖でノドが乾いてしまって上手く飲み下すことも出来なかった。
その唾液を飲み込む音さえ目の前のこの人に聞かれてしまう気がして、それが恐ろしくて、なすすべなく涙と同じようにだらしなくアゴの下へ垂らしてしまった……。
そんな私の背中をおばぁはさすってくれ、私が少しでも落ち着けるようにしてくれていた。
そのまま、しばらくのあいだ、私のしゃくり上げる声と雨の音だけが居間に響いていた。
10分か……あるいは20分ぐらいは経ったのだろうか。
私は依然、身を固くしたままだったが、とりあえず話をまともに聞けるぐらいには持ち直していた。
「……もう、いいよ。落ち着いた。ありがとう、おばぁ」
静寂を私から破り、ずっと背中をさすってくれていたおばぁに、ぎこちなく微笑んで見せる。
「それで……、さっきの、誤解がどうの……っていう話……なんなの?」



