以前の凪は、わたしが『凪は高校を出たらどうするつもり?』とたずねると、いつも困った顔になった。
凪から聞いてくるなんて、初めてのことだ。

「どうしたの? 突然」

「いや、この前東京に行った時、翔くんに聞かれたじゃん。あれ以来、ずっと考えててさ」

「そうなんだ。わたしは基本この町にいたいなあ。大学に行くとしても通えるところがいい。華ちゃんたちも来るしね」

わたしはあまり東京に興味がなくて、家族のそばを離れたいと思うこともなかった。
それにお兄ちゃんたちが戻ってきて、華ちゃんもいると思うと、余計この町にいたいと言う気持ちが強くなっていた。

「そっか」

「凪は? なにか考えてるの?」

わたしがたずねると、凪はうーんと背伸びしながら答えた。

「僕はさ、やっぱりこの畑を守らないといけないと思うんだよね」

「え?」

「おじいちゃんが守ってきたこの場所をさ、僕が引き継いでいきたいんだよね」

その言葉に、わたしは飛び上がりたいほどうれしくなった。

じゃあ、凪はこの町にずっといるのね?

「だから、ちゃんと農業を勉強したいし、それに経営のことも学びたい」

「経営?」

「うん。農業だけじゃなくてさ、ここで収穫できる特産物を使った加工品とかをもっとうまく販売して、この町の経済をもっと活発にさせたいっていうか」

今まで聞いたこともなかった凪の野望に、わたしは興奮した。

「凪、すごい! そんなこと考えてたの?」

「いや、なんか最近、そういうことを考え始めると止まらないんだ。おじいちゃんが作る野菜もおいしいけど、前にくるみの家に持っていったジャムとか、すごい喜んでくれたじゃん。ああいう加工品って、アイデア次第で無限に広がると思ったんだよね。だから自分で、それを作って売ることをやりたいなって」

凪は照れた顔をしつつも、口調は真剣そのものだった。