「うわぁ、こうして見るとすごい荷物の量……」

「荷解き手伝うよ。どれがどれ?」

「ダンボールにマジックで書いてるはず」

引越し業者にお願いして荷物を運び入れたはいいが、一人暮らしの荷物は侮れなかった。
しっかり断捨離して厳選したつもりの荷物なのに、かなり膨大だ。

積み上げられたダンボールを見上げていると、彼が軽い身のこなしでサクサクと荷解きし始める。
この人の行動力はいつでも迅速で無駄がない。

つい見とれそうになっていたら、彼の不満たっぷりの目がついと向けられた。

「瑠璃。早くやらないと日が暮れちゃうよ」

「あ、うん!」


おかげさまで、同じ職場で働かなくなったために公私混同をすることもなくなり、お互いに敬語も取っぱらって名前も自然に呼び合うようになった。
ここまでけっこうな時間がかかったことは二人だけの秘密だけど。

「相変わらずカップラーメンとかコンビニ弁当食べてたんでしょう?今日からはちゃんとしたご飯を作るからね!もう少し太ってほしいし……」

やかん以外の調理器具も何もないまっさらなキッチンに、アパートから持ち込んだそれぞれを収納していく。
たまに彼のマンションに泊まりに来ては、不便さを嘆いたものだ。よくこの状態で二ヶ月以上暮らしていたなぁと感心する。

「太ったらスーツが入らなくなるよ」

「サンタクロースの役をやるにはちょうどいいんじゃない?」

「まあ……たしかに」


クリスマスの時のことを思い出して、二人でくすくすと笑う。
新しい生活は不安がないといえば嘘にはなるけど、それでも希望の方が大きい。

この広い部屋で、二人でどんな思い出を作ろう。
考えるだけでドキドキした。


「そっちは売上も評判も上々みたいでいいね。こっちはまず人間関係の改善がうまくいかなくて困ってるよ」

ダンボールを次々に開けながら彼が新しく異動した店舗の話を始める。
彼は少し前から売上が落ち続けているという店舗にいるのだが、私のいる店舗とは違って従業員同士の仲があまりよろしくないのだとか。

みんながみんな同じようなお店というわけではないのだ。
それがあるから、彼の立つ店長という立場は難しい。

「スタッフを一新するのは?」

「それも考えたけど……もう少しやってみる。みんな根はいい人っぽいからね」

彼のことだから、きっと誰かを切るようなやり方はしないだろう。
きっと毎日疲れて帰ってくるだろうから、少しでもその疲れを癒してあげたい。逆に励まされて癒されそうな気もするが。


「ねぇ、なんか飲みながら作業しない?」

私がそう提案すると、彼は少し考えてから優しく微笑んだ。

「じゃあ、ココアにしよう。朝の分、まだ飲んでない」

「夜はミルクティー、ね」

「うん」






朝はココアを、夜にはミルクティーを飲みながら、二人で話そう。
何気ないこと、仕事のこと、友達のこと、ふと思うこと。なんでもいい。
話すことで、私たちの愛が深まるから。

とびきり甘い飲み物を添えて。










おしまい。