哲平のお母さんは悪い人ではない。でもその上品さの中にトゲがあることを私は昔から気にしていた。
話し方はゆっくりで穏やかだけれど、たまに目が笑っていない時があって怖さも感じるぐらいに。
人様の家庭環境のことをあれこれ言う権利はないけれど、しつけという名の重圧がこの広い家からはひしひしと伝わってきて、哲平は息苦しくないのかなって思う。
哲平も私と同じで弱音を言うのは下手くそだから、未来でも愚痴ひとつ聞いたことがないけど。
「そろそろ母猫が心配するかもしれないから戻そうか」
私は抱いていた子猫をそっと哲平へと差し出す。
「うん。そうだね」
子猫を受け取った哲平の顔が少し寂しそうに見えた。
「大丈夫?」
気づくと、そんな言葉をかけていた。
哲平は周りから完璧だと思われていて、大袈裟にいえば隙がない。だからこそ、吐き出せる場所がないんじゃないかって。
当時は気づいてあげられなかったけど今の私なら、お姉さんのような気持ちで悩みぐらい聞いてあげられるかもしれないと、そんな風に思った。
「はは、大丈夫だよ。ありがとね」
それでも逆になだめられるようにお礼を言われてしまい、哲平は子猫をゲージへと入れた。



