ばいばい、津崎。



私は自分の部屋へと戻って、ベッドにある携帯を手にとった。それはスマホではなく、ガラケーといわれる折り畳み式で私が高校生の時に使っていたもの。


そっと画面を開くと日付は【200X年7月2日】

現実からちょうど、10年前になっていた。


「なに朝からドタバタしてるの?」

と、その時。開けっ放しの部屋のドアから声がして振り返ると、そこにはお母さんが立っていた。


「……お、お母さん」

動揺で声が詰まる。


お母さんの顔が若い。今はスタイリングが面倒だからと短くしてしまった髪の毛も胸辺りまで長くて、昔の思い出の中にいる姿のまま。 
 

頭の整理が追いつかない。

これは本当に夢じゃないの?
私は過去の世界にいるってことなの?


私のぼんやりとしている様子にお母さんは首を傾げていたけどすぐに「遅刻するわよ」と言ってリビングのほうへと向かっていった。


遅刻と言われて会社を思い浮かべたけれど、部屋の壁にかけられている制服を見て、やっと懐かしさに似た感情が込み上げてきた。


上下がセパレートになっているセーラー服。

白地で、襟元とスカートが紺色。私は習慣のように制服をハンガーから外した。そしてクローゼットの中に合わせ鏡があることを思い出して、扉を開ける。


ゆっくりと制服に腕を通して、最後に赤色のスカーフを襟の内側から同じ長さになるように調整して、スカーフ留めへと入れる。


……そういえば、このスカーフだけは誰よりも綺麗にできた記憶がある。同級生たちはみんな歪だったけれど、まるでお手本のような左右対称のYの形。


鏡には、制服を着た16歳の私がやっぱり映っていた。


私が戻りたいと願った10年前。後悔ばかりを残したあの夏に、こうして呼吸をして立っている。