ばいばい、津崎。



私の声にピタリと足を止めて、ゆっくりと顔がこちらに向いた。


「……皐月?」

久しぶりに会うから人違いだったらどうしようと思ったけれど、哲平は方向を変えて私のほうに戻ってきてくれた。


彼の名前は坂井哲平。

島で一緒に過ごした友人のひとりで、まさか美貴や剛に続いて哲平にまで会うとは思わなかった。


「ってか剛と一緒だったんじゃないの?」

哲平の口から出た言葉に私は目を丸くする。すると哲平は「実は俺も誘われてたんだけど仕事が長引いちゃって」と続けて、なんとなく状況が理解できてきた。

だって、哲平が北千住にいるわけないし、こんな偶然があったら私は宝くじでも買って帰るぐらいの確率だ。


「……剛、そんなこと一言も言ってなかった」

やたらとスマホは気にしていたけれど、奥さんかなって思ってたし、哲平が来るなんて素振りは全然見せなかったから。


「俺が言うなって口止めしたんだよ。皐月に逃げられると思って」

相変わらず冗談なのか本気なのか、哲平の表情は読み取りにくい。

思わず声をかけてしまったけれど、剛と話す時よりも私の唇は重くて言葉に詰まる。


久しぶりに会った哲平は、昔と変わらず精悍(せいかん)な顔つきをしていて、背も高いからモデルみたい。

なにか言わないと、と言葉を探していると、哲平は私をじっと見つめて「元気だった?」と聞いてきた。

久しぶりに感じる哲平のまっすぐな視線。