ばいばい、津崎。



夏の暮れだといっても島はまだまだ蒸し暑く、そよ風に揺れる木々も青葉の色が強い。空には夏雲が広がり、ミカンやスモモやプルーンの香りを運んでくる。


――ガラガラ。


「ただいまー」

玄関のドアの立て付けの悪さは相変わらずだったけれど、スムーズに直っていたら、ちょっぴり寂しくなっていたかもしれない。


「おかえり、皐月」

出迎えてくれたのはお母さんだった。年に一度会っていたとはいえ、私の記憶には10年前のお母さんの印象のほうが色濃いから、白髪の数が多くなった今のお母さんがまだ見慣れない。


「うん、ただいま」

私は靴を脱いで、家へと上がった。手荷物を置くために自分の部屋へと向かいドアを開けた。

空気の入れ替えでお母さんが開けてくれていた窓からは眩しい光が差し込み、テーブルの位置も扇風機も過去となにも変わらない。

正直、あまり懐かしい気持ちにはならなかった。


だって、この前までトリップした16歳の私が過ごしていた部屋だから。それでも置いてあるぬいぐるみや雑誌がとても古くて、刻の流れを感じた。


「はあ……」と、一息つくようにベッドへと座る。

主(あるじ)が不在だったためギシィと、スプリングが軋む音も大きくて、やっぱりこの部屋は私が帰らなかった高校を卒業してからの8年間の時間が過ぎているんだと、実感した。