凶器はアレだね。


オレは額を押さえたまま、がっくりと肩を落として背中を丸めた。


この額はどうやらファブリーズの容器で攻撃された模様だ。


「はあー」


溜め息さ。


オレが小学生の頃は、それはそれはもう天使のように優しかった母さんも、今じゃこの有り様さ。


あれやれ、これやれ、って人をこき使いよるしね。


ソファに横になってるだけで、邪魔者扱いさ。


小学生の頃は、母さんがやってあげる、とか、一緒におやつ食べよ、とかね。


やっさしかったねぇー。


「エーエー、オレは小学生に戻りたいっさあ」


ポロリとこぼしたオレを見て、母さんは呆れたと言わんばかりの鼻息を漏らした。


「なに寝ぼけたこと言ってんのよ。戻れないの! 来年は受験生でしょ? もっとシャッキリしてくれない?」


「わーかっとるさーもぉー」


うるさいねー、とテーブルに頬杖を付いた視線の先には、写真立てがあって、何年もずっと同じ1枚が入っている。


母さんのいちばんのお気に入りの1枚だ。


産まれたばかりの翔琉を父さんが腕にすっぽり抱いて、小学生だったオレは母さんと手を繋いでおる。


診療所の前で撮ったやつだ。


懐かしいねえ。


その家族写真を見ながら、オレはなんとなく母さんに聞いた。