急にどうしよる?


オレ……なんか気に触るようなこと言ったかね?


なんで怒りよる?


ただ、いい母親になりそうだよね、って言っただけじゃないか。


「いろは?」


「なれるわけないやろっ! 母親になんか」


その怒鳴りに近いいろはの声に、オレは呆然としてしまった。


「うちにそんな資格あるわけないやろ! もう二度と、んなアホみたいなことしゃべらんで!」


そう吐き捨てると、いろははひとりずんずんと砂に足を取られながら歩いて行こうとする。


「え! いろは! ちょっと待っ」


追いかけようとすると、


「来ーひんで! ひとりで帰れるわ!」


ピタッと立ち止まったいろはが、ゆっくり振り向く。


そして、寂しげな目をして、微かに微笑みながら冷静な口調て言った。


「結弦くん。うちな、疫病神さんなんやって」


それは、波音にかき消されてしまいそうな、寂しい声だった。


また、昨日と同じ目だ。


まるで、悪魔のように冷たく凍てついた……悲しい目。


「うちは、人を不幸にしてしまうんや」


そう言と、いろははゆっくりと踵を返し、ふらふらとした足取りで、浜をあとにした。


追いかけることはできなかった。


できなかったのではなく、追いかけなかった。


どうしたらいいのか、さっぱり分からなかった。


ただひとつだけ、ぴんときたことがある。


いろはは……なにかを抱えよる。


きっと。


鈍感なオレにも分かってしまうくらい、悲しい目を、いろははしていた。


なにを抱えよるのか……いろは。


オレはずっとずっと向こうに見える、青い水平線を遥かに眺めて、海風にあおられて立ち尽くした。


優しく向かって来る海風にあおられて、しばらくそこから動くことができなかった。