恋蛍2

背中がぞくっとした。なんて目をしよる女の子なんかね。その鋭い目を見て、オレはごくりと唾を飲み込んだ。


本気だ。


受け止めてね。


いろはの目はそんな可愛らしいことを言っているような目じゃない。


あなたに受け止めることができる?


そんな、挑発的な鋭い目だ。


高さは3、4メートルといったところか。


まあ、いろはひとり受け止めれんわけじゃない。


腰がグキーッってなるかもしれんけど。グッキィーってなるかもしれんけど。


「どうなっても知らんよ。怪我しても恨みっこなしさ」


オレは持っていたいろはのバッグとサンダルを地面に落とした。


そして、迷うことなく、両腕をいっぱいに広げた。


「来い!」


オレが言うや否や、いろははそこから飛んだ。「行くよ」とかそんなかけ声ひとつなく、ためらいもなく。あっさりと。
いろはの白い足が離れた瞬間、デイゴの木の枝はぐんとしなり、葉と葉がぶつかってまるで鈴の音が鳴るように、シャラシャラ鳴った。

女の子が、デイゴの木から飛んだ。
ひとつも、これっぽっちの迷いも躊躇もなく。


「きゃーっ」とガラスを爪で引っ掻くような芽衣ちゃんの悲鳴が聞こえた。


白く細い両腕を羽根のようにふわりと広げて軽やかに宙に踊った体は、真っ直ぐにオレの腕の中目掛けて飛び込んで来よった。


オレは夢中だった。


いろはを受け止める。


頭の中も体も、ただそれだけだった。


いろはのしなやかな腕がオレの首に巻き付く。


甘く爽やかな香りがする絹糸のような髪の毛が、さらりとオレの顔に降りかかった。


なんて軽やかで、儚い体なのだろう。


オレは胸いっぱいにいろはを抱き止めて、そのまま尻から地面に倒れ込んだ。


微かに砂ぼこりが舞い上がる。