恋蛍2

「危ねーしよー、もーなにしよーるか」


今すぐ降りて来い、と全力で言いたいとこだけど。梯子でもないと危なくて降りて来いとも言えん。
気が気じゃなくてソワソワするオレに、いろはは相変わらず涼しげにフフフと笑いながら言った。


「ほな、行きましょか!」


「は?」


行くって、どこに。


「は?、やないわ。このままじゃ悔しいやろ? 取り返しに行こ!」


そう言うと、いろはは「預かっといて」と上から昨日よりもさらに小さい白のポシェットバッグと、1対のサンダルを片方ずつポンポン投げ落とした。


降って来たサンダルも白くて、真新しいものだった。


「おっと」


オレはポシェットバッグ、それからサンダルを受け止め、


「いや、待て、いろは! 今、梯子か何か持って来てやるからさ!」


木の枝に座って、白い脚をぷらぷらさせているいろはに叫んだ。


ゆっくり、慎重に降りて来るとしてもだ。
こんなにつるつるしよる幹じゃ、いつ手足を滑らせて落ちてもおかしくない。


「そんなん、必要ないわ」


そう言うと、いろはは両手を枝に置いて、自力で降りる体勢になるのかと思いきや、そのまま頭から落ちてしまうんじゃないかと不安になってしまうような、前のめりの体勢になった。

いろはを乗せている太い枝がぐんと下にしなる。


「危ないっ」と翔琉と芽衣ちゃんが目を伏せる。


いろはは前のめりの体勢のまま静止すると、真下に居るオレを見下ろして、ニヤリと口角を上げた。


「えっ」


まさか……。


「いろは、お前」


そこから……飛ぶつもりか?


「ウソだよね? ええーい、そりゃあないっさー!」


「ウソやないわ。うちはいつも本気や。いつも本気で生きとるんや」