恋蛍2

3人によってたかってわんやわんやと囃し立てられた翔琉は、案の定、なにかを言い返すわけでもなく裸足で浜をあとにした。
そうなのだ。翔琉はまた、逃げて来てしまったのだ。


「翔琉、裸足で熱いでしょ? だから」


心配した芽衣ちゃんは直ぐに翔琉を追い掛けて、片方だけでもとサンダルを貸してくれたらしい。


「そんなことがあったかね。ありがとうね、芽衣ちゃん」


足、熱かっただろ、と頭を撫でてやると、芽衣ちゃんは何かスイッチでも押されたようにうわあんと泣き出してしまった。芽衣ちゃんは、ほんとうに優しいいい子で、面倒見が良く、いつも翔琉を助けてくれる。
つられるように、翔琉の泣き声も大きくなる。


「泣くなよー。なんくるないからさあ」


オレはネジが外れたようにわんわん泣きじゃくるふたりの頭をしばらく撫で続けた。
ふたりの足の裏はは片方ずつ赤くなっている。


この小さな足で地面の熱に我慢し、悔しさに歯を食い縛りながら歩いているふたりを想像すると、ぎゅうっと鷲掴みされたように胸が締め付けられた。


「もう分かったからさ。泣くなって。兄ィニィが取って来てやるから」


神さんの木だね、と聞くと、翔琉がひくつきながら頷いた。
それにしても、困ったもんさ。
翔琉はいつもこんな感じだ。
女の子の芽衣ちゃんに助けてもらっているような情けない状態なのだ。


「翔琉、芽衣ちゃんと家で待ってろ。アイスがあるからさ、ふたりで仲良く食べるんだよ」


家まではもう目と鼻の先だ。
一度、ふたりを家に連れて行って、それから浜にサンダルを取りに行こう。


「芽衣ちゃんにサンダル返して、兄ィニィの背中に乗れ。ほら」


と、オレは翔琉に背を向けてしゃがんだ。


次の瞬間。


真上のデイゴの木葉が風も吹いていないのに、ざわざわと一部だけが激しく揺れ、いきなりその声が振って来た。