真っ黒でさらさらの髪の毛に、父さん譲りの黒真珠みたいにくるんと輝くまあるい目。


母さん譲りの色白の肌。


食が細く、もやしのようにひょろりとした体型の翔琉は小学1年生。


10も歳が離れていると弟というより、もう自分の子供みたいに思えてくるから、可愛くてたまらん。


「なんね? 宿題で分からんとこでもあるんか?」


オレが聞くと、翔琉は遠慮がちにドアに隠れながらふるるっと首を振った。


困ったもんさ。


翔琉は小学校に上がるまで病気がちで、その過去を気にしてか内気な性格だ。


気持ちは優しいけど気が弱く、男のくせになよっちい。


同級生の女子との口げんかにさえ勝ったことがないらしい。


言い負かされてベソをかいて帰って来るなんてしょっちゅうだ。


おじい、おばあたちはもちろん、父さんも母さんも、オレも。


翔琉が可愛くて可愛くて、つい甘やかしてしまうのがいけないのかもしれん。


「翔琉、どうしたのか? 言ってくれんと兄ィニィ分からんよ」


おいで、と手招きをすると、ようやくひょっこりと姿を見せて、中に入って来た翔琉がオレのそばに駆け寄って来た。


「あのさあ、兄ィニィ」


そして、蚊の鳴くような声で言った。


「お母さんがさ、兄ィニィ起こしてきてって。朝ごはん食べなさいってさ」


「そうかね。ありがとね、翔琉」


と、その小さな頭をぐりぐり撫でてやると、翔琉はくすぐったそうに照れ笑いして「うん」と頷いた。


内気で気弱で軟弱だけど、誰よりも優しい心を持っておる翔琉は、オレの自慢の弟さ。


「翔琉、何時に起きよったか?」


「6時さ。もう今日のぶんの宿題できた」


「えらいなあ、翔琉」


翔琉と一緒に1階へ降りてリビングへ行くと、対面式のキッチンの奥で母さんが忙しなく動きまわっていた。