恋蛍2

律はシャーペンの芯をルーズリーフの上にシャリシャリと小気味よく走らせながら「ない」ときっぱりと即答した。
その即答は本当に“即”だった。迷いなんて一切ない、気持ちいいくらいの即答。


「まあ、確かにね。ケンカしよると頭にくるけどさ。杏のこと、でーじ大切だからね、オレ」


「そうかぁー」

と返事しながら、うらやましいなと思ってしまった。


律みたいに相手をそう思うのが、本当は普通なんだと思う。それが、好きってことなんだろうな。けど……。オレは……そうだっただろうか。

愛莉と付き合っていたあの3ヶ月の間、愛莉のことを一度でもそんなふうに思ったことがあっただろうか。
確かに好きだったし、だから付き合っていたわけなんだけど。


でも、律みたいに相手のことをでーじ大切だからと即答できるような恋だっただろうか。
そんなふうに、愛莉のことを思っていただろうか。


「あーもうわけ分からん!」


考えれば考えるほど、思い出そうとすればするほど、逆に頭は空っぽになっていくようだった。


確かに好きだったし、大切にしようとは思っていたさ。
ウソじゃない。

でも。


「別れたいって言われたんだぜ。友達のままがいいってさぁ。なのにさ、今になってまたやり直したいって。意味が分からん」


ガバッと体を起こして今度はオレがテーブルに身を乗り出すと、律は真面目にノートを写しながら小さく笑った。


「まあ……それくらい結弦のことが好きだって、別れてからようやく気付いたってことじゃないのかね?」


律が走らせるシャーペンの音がテーブルから腕に伝わってくる。
オレはテーブルの上にスマホを投げ出して、頬杖をついた。


「大切って……どんな感じね? 律」