「えっ!」
手首を掴まれた衝撃と思いがけない展開に驚いたオレは、とっさに手から鍵を離してしまった。
カシャン、と足元に鍵が落ちる。
「わっ! ごめん、落とした」
拾おうとしたけど、できない。
「え、あの……さ」
いろはの白い手がまるでヘビのようにオレの手首を締め上げて、離れないのだ。
「結弦くん」
ずいっと顔を近付けて来たいろはの麦わら帽子の鍔が、鼻の頭と額をかすめた。
「は……はい?」
あまりの距離の近さにたまらず一歩後退りしても、いろはもまた一歩詰め寄って来る。そして、オレの手首をぎゅうっと掴んで、手繰り寄せる。
目が……瞳がどっしり座っとる。
「なに言われたの?」
「へ?」
「誤魔化しても無駄や。葵おばちゃん、うちのこと、なんか言わはったやろ?」
肩甲骨のあたりがギクリと軋んだような気がした。
妙に張り詰めた空気に耐えきれず、思いっきり唾をごっくりと飲み込む。
な……なんて目か。
まるで悪魔さ。
感情のない悪魔みたいに冷たい目を、いろははしていた。
ほんの数秒前の人懐っこい笑顔のいろははもう、どこにも見当たらない。
「なあ、結弦くん」
その声色まで明らかに変わりよる。おっとりとしたやわらかな声色とは真逆、まるで凍てついた氷みたいだ。
「なに言われたん?」
いろはの目は背筋がゾクッとするほど黒々と照り輝いて、挑発的で、オレの体から自由を奪って行くようだった。
「な……にってぇ?」
なんとかやっと声を出せたと思えば、オレの声はピャーとリコーダーで音を外したようにうわずった。
「ええわ。なら、うちが当ててあげはるわ」
と、いろははフンと鼻で笑って、どこか人を見下すように、妙に自信に満ちた表情で続けた。
手首を掴まれた衝撃と思いがけない展開に驚いたオレは、とっさに手から鍵を離してしまった。
カシャン、と足元に鍵が落ちる。
「わっ! ごめん、落とした」
拾おうとしたけど、できない。
「え、あの……さ」
いろはの白い手がまるでヘビのようにオレの手首を締め上げて、離れないのだ。
「結弦くん」
ずいっと顔を近付けて来たいろはの麦わら帽子の鍔が、鼻の頭と額をかすめた。
「は……はい?」
あまりの距離の近さにたまらず一歩後退りしても、いろはもまた一歩詰め寄って来る。そして、オレの手首をぎゅうっと掴んで、手繰り寄せる。
目が……瞳がどっしり座っとる。
「なに言われたの?」
「へ?」
「誤魔化しても無駄や。葵おばちゃん、うちのこと、なんか言わはったやろ?」
肩甲骨のあたりがギクリと軋んだような気がした。
妙に張り詰めた空気に耐えきれず、思いっきり唾をごっくりと飲み込む。
な……なんて目か。
まるで悪魔さ。
感情のない悪魔みたいに冷たい目を、いろははしていた。
ほんの数秒前の人懐っこい笑顔のいろははもう、どこにも見当たらない。
「なあ、結弦くん」
その声色まで明らかに変わりよる。おっとりとしたやわらかな声色とは真逆、まるで凍てついた氷みたいだ。
「なに言われたん?」
いろはの目は背筋がゾクッとするほど黒々と照り輝いて、挑発的で、オレの体から自由を奪って行くようだった。
「な……にってぇ?」
なんとかやっと声を出せたと思えば、オレの声はピャーとリコーダーで音を外したようにうわずった。
「ええわ。なら、うちが当ててあげはるわ」
と、いろははフンと鼻で笑って、どこか人を見下すように、妙に自信に満ちた表情で続けた。



