恋蛍2

「いーやあ、深い意味なんかないっさあ。ほら、まだ島のことも分からんだろうしさ。知り合いも友達もおらんし」


そして、ケーシー白衣のポケットに両手を突っ込んで曖昧に笑う。私が心配なだけさ、と。


「一緒におる時でいいからさ、あの子から目ぇ離さんでくれんかね」


まあ、確かに。葵先生の気持ちも分からんわけじゃない。
葵先生は人の子を預りよる身なわけだし、いろいろと心配だろう。
彼女も彼女で、馴れない土地にひとりで来て馴染めるか不安だろうしさ。


分からんでもないけど……でもさ。


そこまで過保護にする必要があるような子なのかね。
そんなことを考えながらふと外を見ると、彼女もこちらを見ていてしっかり目が合ってしまった。
別に彼女の陰口を叩いておったわけじゃない。

でも、確かに彼女の話をしとるからか罰が悪い気分になって、反射的にぱっと目を反らしてしまった。


「けどさ、葵先生。あの子、そんなに心配しなきゃならんような子なのかね?」


と聞いた時、


「葵先生ー! 電話代わってくださいー!」


絶妙のタイミングで受付の小窓から顔を覗かせた美波姉ェネェに呼ばれ、葵先生が弾かれたように振り向いた。


「電話? 誰ね?」


「A製薬のマエダさんです。新薬の話や言うてるけど」


「分かったさ。いま行く」


そして、葵先生は「よろしくね」と俺の左肩をポンと叩いて、すたすたと奥に姿を消してしまった。


「あ、おい……先生……」


注意深くって、なにか?
目ぇ離すなって……なんでね?
同い年ってことは、あの子ももう高校生なんだしさ。


そこまで心配する必要あるか?


受け取った鍵をぎゅっと握り締めて、オレは首を右に左に傾げながらもふらりと診療所の外に出た。


「あっつ……」


診療所の中におった十何分の間に太陽の陽射しは一段ときつくなって、ジリジリと焦がすように肌に突き刺さる。その陽射しは痛いくらいだ。
陽射しの眩しさに、一瞬、くらりと立ちくらんだ。


頭がぼんやりする。


「結弦くん!」


茹だる暑さの中、透き通ったその声にはっとした。