「で、何があったんです?」

「別に。エセ塾講師に勧誘されただけ」
「その勧誘に乗ったんですか?」

「たぶんね」

僕の知らない曲が流れる車の中で、僕は目を閉じて、猫みたいな犬の質問に丁寧に答えてやっていた。



「機嫌が悪いのは、彼女に振られたからですか?」



「は?」

僕は思わず目を開けると、ミラー越しに守木と目が合ってしまった。


「…そうですか」


一瞬、僕じゃないと気づかないくらいの間があって、守木が先に視線を外した。

冗談じゃない。


「___僕はそんなこと一言も言ってない」


東城はただ特別なだけで、そんなピンクじみたものじゃない。


「そうですね」
「そうだよ」

「蒼様」

「なに?」


「少女漫画でもお貸ししましょうか?」


僕は前の座席を蹴った。

僕がこんな奴の言葉に労力を使うだけでも腹立たしいのに、僕の意志に反する言葉が繰り出されるのはもっと腹立たしい。


でも、こいつが僕について何かを決めつけるのが、一番嫌だった。