私たちは見つめあった。
決してロマンチックなものじゃない。探り合うようなそんな瞳をお互いがしていた。

しばらくそのまま見つめ合っていたけど、私の方はまるで何も分からなかった。きっと、偽善者の私には霧蒼も達也と同じで、その性を理解することは一生出来ないのだろう。

ふと霧蒼の方が先に視線を外した。

「………まあ、あんたのことなんてどーでもいいけど」

どこまでも偽悪的な彼に私は、素で笑った。

「そう?私は今日の一件で霧蒼に興味が湧いた」




だって、もしかしたら私の中の達也という絶対的正義を翻せる存在かもしれない。




「霧蒼、もう一度聞くけど、手伝う気はない?」

「………それって、あんたの彼氏に会えってこと?」
「うん」

この時、私の世界の色は変わり始めていたのかもしれない。

しかし、今はただ達也との離別のことばかり考えていたんだと思う。

いや、それはおこがましい。偽善者の私にも、悪役の私にも似合わない言葉だ。



強いて言うならば、私は私のことだけを考えていた。
達也のことを考えていると言いながら。



「気が向いたら、行ってあげてもいい」

この霧蒼の言葉に私が素直に頷いたのも、たぶんそれだけの理由だった。だから霧蒼が何を思って、今さらいいと言ったのかとか、考えもしなかった。


「じゃあ、気が向いたら言って」




霧蒼は何者なのか、そんなことはもう重要でもなんでもなかった。