透明人間の色



「じゃあさ、じゃあさ一緒に行こうよー」

ばっと顔を上げてそう言った楓に私は軽く引いた。


それはそれは、とても嬉しそうに。


てっきり騙していたことで、怒られるか気まずくなるかのどっちかだと思っていたから、この反応には拍子抜け。

本当に楓は甘いというか、なんというか。
とにかく今日は完敗だ。



そう、私が楓に負けるのは大抵こんな時だ。

怒るという感情も行動もどこかに置いてきたような、そんなところが楓にはあって、それに毒気を抜かれた時、全てがどうでもよくなる。



「ね、駄目?」
「………土曜の一時半、学校集合で」



渋々といった風に、でも少しだけ勝手に上がる口の端は隠しきれずに日時を決める私。
でもそうできるのは、楓が断らないことを知っているかに過ぎない。



可哀想なことに楓に私より優先したいことなどないのだ。


そしてなんだかんだ言っても、そんなバカな楓を私は相当気に入ってるんだと思う。

私はご都合主義だから。

「良かったな、楓」

そう言って達也は部活バックを肩にかけた。部活に向かうのだろう。
だが、私は敢えてその足をとめる。

「いや、達也もだから」

達也がこちらを返り見た。顰めっ面をしているつもりなんだと思うけど、ニヤついた口許は隠せない。私の表情筋も更に緩む。

「だと思った。なんで土曜が部活午前だって知ってんだよ?」

達也が一生懸命怪訝そうな声を出しているのが分かる。だが、残念なことに隠しきれない嬉しさが溢れ出ていた。



“なんで知ってんだよ”は裏を返せば“そんなに俺が好きか”と聞いているのだ。



「さあ?」

私の答えは答えでもないような差し障りのないものだったけど、達也はそれで満足した。機嫌良さげに仲間と部活に向かってく。そんな背中が可愛い。自分の頬が緩む。


ときどき達也や楓を見ていると、実は彼らの方が私なんかよりもずっと自分のご都合主義なんじゃないかと思う。

なんでもかんでも、自分のいいようにしか物事を解釈しようとしないから。


「あー、楽しみだな」
「じゃあ」
「うん、また明日ね」


楓の満面の笑みに私はただ手を振ってみせた。