その日の放課後、私は美術室に寄らなかった。でも、だからといってアイスクリームを食べようという楓からの誘いに乗ったわけではない。
今日はやらなければいけないことがある。だから、真っ直ぐ帰宅することにしていた。
でも、楓の誘いを断った理由は別のところにある。どちらかと言えば片手にアイスクリームを持った楓が居てくれた方が、助かるような用事だ。断る理由なんてなかった。
でも、それ以上に楓と一緒に居るのは都合が悪い。
第一に、楓は毎日チラシを私に見せつけて行こうと言うが、さすがに毎日アイスクリームは付き合っていられない。そんなことをしたら晶人さんのお金を無駄遣いすることになる。
バイトすればお金なんて気にしなくていいんだろうけど、そんなこと言ったら晶人さんは私に家へ帰ってくるように言うに決まってる。
私はあの家が嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。けど、戻りたくはない。
だから都合が悪い。
その時、見たくないものが目に入った。
「………」
それは、公園のベンチにランドセルを放り投げてブランコに乗る男の子と、それを妬ましそうに見ている女の子。
どこにでもいる小学生だと思う。
でも、一瞬でその状況を理解してしまった私は相当なひねくれ屋だ。
そしてこの世のほとんどの人間が相当なひねくれ屋なのかもしれない。
「帰ってからじゃないと遊んじゃいけないんだよ」
女の子が言った。
「ふーん」
男の子は気の無さそうなフリをしているつもりでいるけれど、そんな返事は女の子が言いたいことをちゃんと分かってる証でしかない。
ほら、女の子がまた何か言っている。ブランコを譲られるまでこれは引かないのだろう。
そんな状況だったけど、私はそこに僅かな希望を持っていた。だから、立ち止まったまま、二人の様子を見守った。
やがて根負けしたような男の子がブランコをおりた。帰るのかと思えば今来たらしい友達と共に鬼ごっこを始める。
でも、そんなことはどうでも良かった。
私はブランコに乗った女の子を、メチャクチャにしてしまいたかった。
そうすれば、このすべてに対する絶望を取り除けるということでもないというのに。
「なんでっ、なんでランドセル投げつけて帰れってもう一回言ってくれないの?」
気がついたら呟いていた私の心はどうしようもない絶望に染まっていた。
なんで。
繰り返し呟く私の唇は止まらない。
答えを私は知っていた。男の子もきっとそう。だから女の子に友達が来るまでブランコを譲らなかったんだから。
女の子は自分がブランコに乗りたいから、一旦家に帰ってから遊ぶというルールを無視して、寄り道してブランコを占領している男の子を叱ったのだ。
そしてそれを分かってたから、男の子もブランコを下りる必要がないと思った。
もし、私がひねくれ屋でなかったのなら、男の子を賢いと思わないんだろう。
自分の願望を叶えるための正論をぶつけた女の子を汚いと思わないんだろう。
でも、一番思うのは一つ。
もし、私が綺麗な人間だったなら、こんなことに絶望したりしない。


