「達也放していいよ」
「やだ」
「私、大丈夫だから」
「信用なんねーんだよ」
「達也………ちゃんと楓と話をさせて」
私を抱きしめた達也の手がピクリと動いた。
「__できんのかよ」
「バカにしないで。というか、ただの雑談じゃん」
「………お前らの雑談はクラス全員の興味を引くほどは面白くねーよ」
そう言えば嫌にクラス内が静かだ。
やって、しまった。
「___それ、達也くんのせいだよ」
静かな空間に落ちた笑いを含んだ楓の言葉に私は目を見開いた。
「…確かに」
冷静が完全に戻ってきた。
そう私は楓と熱い話を少ししていただけであって、クラスの全員の目を集めるほどじゃない。
達也が私なんかを抱きしめるからこうなった。
「は?俺は美香を思って___」
「どーも。じゃあ、これ捨ててきて」
後ろを見ずにペットボトルを差し出す。しかしいつまでも達也が受け取らないので、私は仕方なく振り向いた。
「なっ___」
すごく近くに真っ赤な顔をした達也がいてたじろぐ。
「早く捨ててよ」
「やだ」
「なんでもかんでも、やだってねぇ__」
「美香」
達也は私のことなんでも知ってるみたいな顔して言う。
「お前、俺らのこと大好きだよな」
その言葉に楓が嬉しそうに笑った。さっきまで泣きそうだったくせに。
やっぱり二人は自分のご都合主義だ。良いようにしか物事を見ない。
私はそんな二人の瞳を真っ直ぐ見つめ返すことが出来ないというのに。
「………自惚れないで」
やっとのことでそれだけしぼりだすと、二人はやっぱり能天気に笑うのだ。
「はいはい」
「美香ってツンデレだよねー」
二人がそんなことを言い出すから、ほら顔が熱い。ただでさえ、真夏の昼間は暑いというのに。
「デレてない」
私は無駄と分かりながらそう返さずにはいられなかった。
「そーお?達也くん、美香の顔赤くなーい?」
「楓、うるさい」
「ねー、美香」
「なに?」
つい唸るようにそう言った私に楓は天使の微笑みを浮かべている。
「ありがとう」
あー、なんかもういいや。
「なんのこと?」
ため息をつくように出た言葉だったけど、いつもと違うのはそれが幸せのため息に限りなく近いということだった。
というか、幸せが通りすぎて一周回って何だか寂しい。
でもまあ、この二人が私をツンデレとか言うなら、もう少しそのお望み通りでいてみたいと思えるほどのものだった。


