遂にこの日がやって来た。
「緊張してますか?」
「そう思うか?」
質問を質問で返す僕に、肩を下げる守木。こんなでも車の運転テクも頭も一応は一流だ。
追手を先回りして今追いつめているが、そこには余裕がある。
「反旗を翻すなら今しかありませんよ」
「別に間違ったことはしていない」
「………ええ。間違いなんてものは存在しませんから」
そう神妙な顔つきでハンドルを握るミラー越しの奴が何だかムカついて、僕は前の座席を蹴った。
「詩的な話をしてるんじゃない」
「知ってました?蒼様が蹴るその部分だけ引っ込んでるの」
「お前の車がどうなろうと知ったことじゃない」
「でしょうね」
蒼様にプレゼントされた大切なものなのですが、とゴニョゴニョと続ける奴は、あと数時間で死ぬかもしれないと分かってるんだか、分かってないんだか。
まあ、どうでもいいけど………
「…………お前は?」
「は?なんでしょう?」
「お前はどうなんだ?」
「えっと、何の話ですか?」
「………今日のこと、どうなんだ?」
こいつはどこまでも俺についてくる。それは分かってる。
けど、こいつだって人間だ。思うことはある。
今日という日にこいつはいったい何を考えているのだろう。
「………蒼様がそんなことを聞くなんて思いませんでした」
「ああ」
「自分は蒼様に従うまでです」
「知ってる」
「けど、敢えて言うなれば___」
追っ手から少し外れた視線は、鏡の中の僕を捕らえた。
「別の正義を信じる蒼様が好きでした」