促されて中に入ると、長い机の向こうの真正面にあの人がいた。
両肘を机について組んだ手に顎を乗せるその人は、真っ直ぐこちらを見た。
能面のようなその顔の中で瞳だけが怒りで煌めいている。
「紫」
静かな湖面に一滴の雫が落ちた時、広がる波紋のような声だった。
「申し訳ありま___」
「早く座りなさい」
「………はい」
ああ、そうだった。
直接会うのは久々だったから忘れていたが、この人はこういう人だった。
無駄は好まず、目的に向かってただ突き進む。
たぶん、俺はこの人のそこに惹かれたんだ。
この人より先に美香に会っていたら、全てが違っていただろうか?
ふと少しそんなことを考えることがある。そしていつも止めた。
そんな仮定に意味はない。
過去形のifに意味はない。
あるとしたら、それはむなしさだけ。
俺は席を探してあの人の右隣だけが空いてることに気づいた。
その時、今までは当たり前だったはずのことを改めて実感する。
俺はこの組織のNo.2。“紫”なんだ。
俺はその席に座るために、自らその席の椅子をひいた。
俺が席に座るか座らないか怪しいくらいのタイミングで、再び口を開いたその人。
珍しいけど、たぶん少し興奮気味の声だった。
「では、日本改造計画第八回会議を始めましょう」


