透明人間の色




一度も振り返ることなく建物の裏から出ると、思わず目を細めてしまった。

俺にはこの陽射しが眩しかったようだ。

柵が遠くに見えるほどにはここの敷地は広く、地面は綺麗な芝。どこまでも続くかのように見えるその緑は、俺には正しさの象徴に思えた。

そして不意に願う。


生まれ変わったらこんな草になりたい。


何も考えず、それこそこの陽の光を眩しいとも思わず、真っ直ぐ生きていきたい。

あんな建物の裏の陽の当たらない場所で、大切な人を突き放さなければいけないなんて、そんな生き方はもうたくさんだ。

こんなことを思う日が来るなんて、全く考えていなかった。

最初は美香なんて自分の正しさを肯定してくれる代表みたいな存在でしかなかったのに。


考えてみればおかしなことだ。

普遍なんて、自分が一番信じられないものなのに。



その証拠のように、俺は美香を愛してしまった。



全く、想定外だった。

そしてそれは“紫”にはとても似合わない言葉。


でも、紫じゃない自分を俺は多分そんな嫌いじゃないと思う。

晶人という存在もしない人の名が、彼女だけが呼ぶその名が、鼓膜を震わせる時。

今思えば、そのたびに無意識に口の端がつり上がっていた気がする。

この感情を嫌いだと言える根拠は、どこにもない。




しかし、俺は破名が裏から出てくる気配に、建物の中へと入った。


建物内部は闇そのものにも関わらず。


「紫様、皆さまもうお揃いです」



「分かってるよ___」