「こんなところでどうしたんですか?」
その声に咄嗟に顔を上げると破名がこちらを見ていた。どうやら俺がいないことに気づいて探しに来たようだ。
「なんでもない」
「東城美香、ですか?」
この様子だと、話しているところも見てたかもしれない。
全く、油断も隙もないな。
「そうだよ」
悪びれもなくそう言ってやると、破名は唇を噛んで俺を睨む。
眉ひとつ動かさずそれを見ていたら、破名はパッと目をそらして小さく告げた。
「始まります。お急ぎを」
「言われなくても、そうさせてもらうよ」
我ながらわざわざ探しに来てくれた部下を前に、冷たい対応だと思った。
しかし、俺は携帯をいじりながら、無言で破名の脇を通りすぎる。
それは無視に等しかったが、仕方がない。動揺を感じ取られたら、調子に乗らせてしまう。
俺は美香の監視を頼んである奴に“一挙一動報告しろ”と打った。俺がそう頼んだらあいつは絶対そうする。
破名とは違う、もっと深い信頼関係があるから、今日という日の美香も彼には任せられる。
さあ、仕事だ。
正義ごっこの時間だ。
俺が美香に今できることなんて、ない。


