透明人間の色




電話の向こうからは、すすり泣く声がかすかに聞こえてきた。



その言葉だけで本当に仕事なんかどーでもよくなるんだ。

美香はこの世で唯一、大切な人。


なのに、どうして。
どうして、今なんだろう?


「………ごめん、美香ちゃん」


『うん』

「寂しくなったらすぐ連絡して。絶対出るから」

『うん』



「ちゃんと、待ってて」



『うん___』

含みのあるような返事だった。


「じゃあ___」




ツー、ツー、ツー


“早く帰れるようにするから”


そう言いかけていたのに、一方的に電話が切られたと思うのは、俺が不安なせいだろうか。


多分、きっとそう。

俺は言い聞かせるように、何度も何度も不安がる要素がないことを確認した。

待っててという言葉に“うん”とそう小さな声で言った美香。

こんなことで、美香は嘘をついたりしない。

大丈夫、大丈夫だ。


そうだ。今日は美香の好きなアップルパイを買ってきてあげよう。


きっと、落ち着くはずだ。

どっちがとは言わない。


ああ、今すぐ会いたい。