ビルの影で私は待った。

あの偽悪的な彼が来ないはずはないと信じていたかったから。

でも、通り過ぎていったのは、泣きそうな顔の達也だった。

私を追いかけては来なかった。

それもきっと、達也が弾き出した優しさなんだろう。


分かってたよ。
六年が経とうとしているあの夏の日から。


もっと言いたいことがあった気がするけど、上手くいかないものだ。

達也を前にして全部吹き飛んでしまう。


でも、最後に好きだよと伝えるのは酷いだろう。


どれだけ伝えたくてもそれはしまって置こうと思った。

代わりに涙は止まらないけど。



「来ないか」


三十分ほどか待ち続けたけど霧蒼は現れない。


もうすぐしまってしまう美術展。

そこには窓の絵ともう一つ、私の作品が飾られているのだ。

そっちは霧蒼に見てもらいたかった。


今日、今すぐに。



私はビルの中に引き返した。