「変なこと言わないで! ごめんね? セイくん」

「もらってもいいんですか?」


__はい?


「やだぁ」手を口に当てて、年甲斐もなく照れている。


こっちが嫌だよお母さん。変な空気作らないで。


「お母さんに合わせなくていいよ」

「なんで? 美琴みたいな可愛いお嫁さんなら、僕、欲しいな」


そんなことをさらっと言いのけてしまうセイくん。あなたは、なんて罪な人なの……?


心臓が……、やばいんだけど!?


「そろそろ、行きます」

「あ、わたし、送るよ!……自転車だけど」


きっと、駅まで行くんだよね?


「ううん、ここで大丈夫。暗いから、美琴は家にいて」

「ごめんねぇ。車、パパが乗って行ってて」

「お気遣い、ありがとうございます。餃子、とっても美味しかったです」

「あんなのでよかったら、いつでも食べに来てね」

「嬉しいです」


セイくんが、行っちゃう。


日常であって非日常のような、ドキドキでまぶしい時間が、終わってしまう。


「……そうだ、美琴」

「ん?」

「しばらくバタバタするんだけど、落ち着いたら、絵を見に来るね」


__!


「それでは、お邪魔しました」


最後にお母さんに挨拶するセイくんに、右手を差し出すお母さん。


それをみて、ニッコリ笑うと慣れたようにセイくんも右手を差し出して握手を交わした。


「……大変だと思うけど、頑張ってね」





「ありがとう……ございます」