獄は目を見開き背をもたれていた体を垂直に立て直した。

「ああ、死亡率は低いから大丈夫だよ。」

アミラが安心させるようなことを言うが獄にとっては余計不安であった。

死亡率が低いということは状況によっては死ぬと言うことだ。

「ふふ...ほんと扇の事になると必死だな獄は...ふふ」

アミラは口を手で抑え笑いを抑えるが抑えきれず声が漏れる。

獄は若干頬を赤くするがすぐに立て直した。

「で、扇は今どのようになってるんです?」

「そうだね...簡単に言うと今後魔法が使えなくなる可能性が出てくる。

魔力が濃い場所とかは今と同じように行き来はできるけれど」

獄は一言も言葉が出なかった。
この世界では魔法は当たり前のようにある。

もちろん使えない人もいるが扇のように昔から魔法を使ってきた者からすればショッキングなことだ。

「なぜ...」
「それは、獄がよく分かってるんじゃない?
扇の魔力はいつも感知してるだろ?」

獄はコクリと頷きしばらく思考をめぐらせる。
そして、答えが出たのだろう目を細めて難しい顔になる。

「分かったかい?それが答えさ。
この戦いに参加するのならば少なくとも覚悟はしておいた方がいい。

私としては死んで欲しくないからね。
せっかく可愛い妹たちが出来たんだ居なくなるのは悲しい。」

アミラは扇と獄がグリムズに来た時から仲が良かったのだ。

元々、朧月とは付き合いが長く天利亜とも仲が良かったためよくからかいに行っていた。

その事もあり、アミラは扇と獄を妹、弟のように可愛がっていたのだ。

「今回の戦いで扇から離れるんじゃないよ?
守るんだろ?」

「ああ。絶対に守り抜く。」

獄は拳に力を入れ爪が皮膚に食い込む。
アミラは獄の覚悟と決意を確認し最後にニヤッと笑った。

「そうかそうか!それは良かった。
結婚式は呼んでくれよ?楽しみにしてるんだから」

そう言うと、獄は顔を真っ赤にさせた。
アミラのいつものからかいだ。

知識の覇者と言うだけありあらゆる情報を知っている。

それは個人から国関係まで幅広く。

「さっさと消えろ!」

獄は目をそらして言う。
アミラはしてやったりと爆笑しながら はいはい と言って黒い風と共に消えた。

完全に消えたことを確認して獄は舌打ちをする。

顔は真っ赤のままだったのであった。

「相変わらずよく分からない人だ。」

獄がため息をついていると扇が帰ってきた。

「何赤くなってるの?ひーくん」

素っ頓狂な顔をした扇は獄を覗き込んできた。
相変わらず気配を消すのが上手い扇に少しビクッとなる獄は 何でもない と目をそらした。

あやしい...と扇をずっと見ていたがすぐに任務モードに入った。

「司令...今日の2時間後にAからBに移動。

殺たちには既に言ってあるけど今回動くのはうちと獄、ウルマス・サリアンだけ。

陽班は待機してもらうから。」

獄は 了解 と頷いた。
ここでいう、ウルマス・サリアンとは姉たちの事だ。

「羅先輩からの指示...
この戦いでは俺と組むこと、離れないこといいな?」

アミラがそんなことは言っていないがあれでは言っているようなものだ。

それに疑問にも思わなかった扇は笑った。

「りょ〜かい!」

その笑顔に獄も表情が和らいだ。
しかし、2人はある視線にその視線の先を見た。

「今のって...」

扇は獄の顔を見た。
獄も頷き確認するように消滅の呪いを発動した。