「空間を止めるものよ、時間を操るものよ、

世界に静寂をもたらせし力を我が身にまとわせよ!

静寂のナナニカ (せいじゃくのななにか)」

レイリは静寂のナナニカという空間と時間を操る契約武器を召喚した。

もちろん、禁級だ。

銀色の懐中時計の形をしており、時間と方角、魔法文字が重なるように描かれている。

そして、秒針、分針、時針それぞれが動いている。

「空間を止めるのでその隙に中に入りましょう。」

レイリは懐中時計を手のひらに乗せ、目を瞑る。

すると静寂のナナニカの針は止まり、黄色の魔法陣が現れた。

「…止まったなぁ」

見た目では分からないが止まっている。
これは空間そのものが止まるわけなため、人は勿論、植物も風も止まってしまう。

この階には倒れて動かない人しかいないため、わかりずらいのだ。

「設定をこの建物のみにしたので、外からは気づかれないでしょう。

動けるのは、私たちと朧さんたちだけです。」

確認するかのように静寂のナナニカを見る。
懐中時計の針は止まり、魔法文字が黄色に輝いている。

「さて、そんでどうするん?
この部屋から奪うんもええと思うやけど」

部屋の扉をあけ、中の様子を見ながら蜘蔬はレイリに言った。

情報は紙にずらりと並べられた魔法文字で書かれていることが多く、それを読み取れる装置もここにはある。

魔法の知識がない一般人が読めないようにということもある。

が、基本的には魔法が使える人がその紙を取ると読めなくする魔法をかけることで情報を渡さないための魔法文字である。

「そうですね…
簡単なのはこの情報が新鮮な…つまり、魔法がかけられていない時に戻って消滅できれば…」

レイリは考えを口にするがそれを実行しようとは考えていないようだ。

まず、それをするにはレイリに負担がかかるということだ。

今の空間を止めたまま時間を戻し、過去に行く
そして、その過去の空間を一旦止めて情報の削除にかかる。

連続して静寂のナナニカの行使と行使継続はそう簡単にできない。

下手をすれば現在の時間に戻れず、体がバラバラに引き裂かれるだろう。

「そら、あかんやろ。」
「…レイリ負担多すぎ」

やはり蜘蔬と水無月はレイリの考えを却下した。

ですよね とレイリは苦笑いした。

「それいい考えだね!」

だが、予想していなかった反応が隣から聞こえた。

「うわっ!」
「ひゃっ!」
「………っ!」

3人は油断していた(静寂のナナニカで誰も動けないから)ため、驚きが隠せず悲鳴をあげた。

そんな3人の表情を見て円はクスクスと笑う。
円と朧であったことに蜘蔬は一安心した。
もし、これで敵だったら今頃お陀仏だろう。

「ちょっと気が抜けてるのかな?」

円は3人の悲鳴がおかしかったのか未だに笑っている。

「……」

全くその通りなため、3人は顔を赤らめることしか出来なかった。

「あっ、さっきのいい考えって…」

レイリは円が言ったことを聞き返した。
円は頷く。

「ええ!その考えで行けると思うのよ!」

円はニコニコと自信ありげな表情であり、少しワクワクしている所もある。

「やけど、レイリはんに負担がかかるで」

蜘蔬と水無月はお互い顔を見合わせた。
だが、円は 大丈夫 と言うだけでよく分からない。

すると、朧が円の代わりに説明した。

「円にも考えがあるんですよ。

円の特殊な魔法…円(えん)の魔法を使って過去の空間を止めようと考えているのです。」