「そういや、名前知らんのやけど」

蜘蔬がふとそんなことを思った。
円は時計塔で会った時に名乗ってくれたがこの男は教えてくれなかった。

コードネームである1文字も分からない。
なぜならこの男の制服は長袖で二の腕あたりが見えないからだ。

今までのグリムズの男は半袖もしくはノースリーブ。

絶対コードネームの1文字が見えるようになっているのだ。

「ああ、私の制服はあなたたちが見てきたグリムズとは少し違う班にいますから。」

心の内を読まれたと思いながら蜘蔬たちは頷いた。

「違う班?」

蜘蔬とレイリは互いに顔を見やり、水無月は首を傾げた。

「ええ…まぁ、それはまた後に。とりあえず1文字だけ言いますね。

私のコードネームの1文字は 朧(おぼろ)です。」

「朧…さん。」

朧は はい とニコッとしながら頷いた。
朧は常に敬語で話しており人と話すのが上手い。

「それで、朧さんがなぜここに?」
「1つ言うことを忘れていたのでレイリさんを追って来たのですが、作戦を練っていたので気になってしまい…」

苦笑いをしながら朧はある封筒を渡した。
それを蜘蔬が受け取り中身を見た。

その中には "西京華市の学校" と書いたパンフレットが入っていた。

「西京華(せいけいか)…」

蜘蔬はそのパンフレットの中身を見た。
そこには、様々な職業になるために学ぶ学校…つまり専門学校や大学(のようなもの)…の名前やその学校の特色などが書かれていた。

「今後にいいかとおもいますよ。

西京華市はグリムズの中で教師や調理師などの職に就くために学ぶ学校が多い場所なんです。

グリムズに来たからと言って人殺しばかりをやれとは言いません。

実際、20歳を超えた人の中で飲食店を経営したり、農家になったり様々な職業についている人が多いです。」

朧はいつものようにニコニコしていた。

グリムズは、グリムズとハルパーという2つの都市がある。

グリムズは蜘蔬たちの世界で罪を重ねた者の暗殺が主で、

ハルパーではグリムズたちを支援したりする役職が主である。

簡単に言うと、グリムズは戦闘系、ハルパーは頭脳系と言ったところ。

蜘蔬たちが知っているグリムズたちの制服は円がきているようなノースリーブや半袖の制服であるが、

そうではないハルパーにある組織(班)に所属している者は制服は変わってくる。

グリムズの人とバレてはいけないため朧のように長袖のどこの所属かも分からないような制服となっている。

そんなハルパーという都市に西京華市がある。

「へぇ〜いろんな職業があるんやなぁ」

魔法を使う者として将来は魔法関係の仕事に就と思っていた蜘蔬は、パンフレットに載ってあるものを片っ端から見始めた。

「わざわざありがとうございます。」

レイリは礼を言ってはいるが、パンフレットに書いてある内容に興味があるようで少しソワソワしている。

「いえいえ。それでは私はこれで…
また明日会いましょう。」

それだけを言い朧の姿はかすんでいき消えてしまった。

まさに朧気のように…