「それ、間違ってる。」




「えっ?」




そんな筈はない。


手に握るコンビニにて500円で手に入れたビニール傘と声の主とを交互に見る。


梅雨時だというのに珍しく傘を持たずに家を出たのは今朝の事。


なんとかオフィスまで持ってくれないかなと曇り空を仰ぎ願うも虚しくそこは最強と言われるほどの雨女の私。


案の定、駅からオフィスへ向かう途中で雨に降られたので仕方なく近くのコンビニで買ったものだ。


間違いない。


これは確かに今朝、私が買った傘なの。なのにーーー


「だから、それ、俺の。」


いやぁ……、どう考えてもこれ私のだと思うんだけど。


だからと言って名前を書いてる訳でもないから絶対私のですっ‼とは言い難い。


だけどさぁ……


顔色一つ変えず傘を寄越せと言わんばかりに右手をこちらに差し出す見知らぬ人。


いや、顔は知ってるか。


確かうちのオフィスのもう1階上のフロアの人じゃなかったっけ?何度となくエレベーターで一緒になった記憶がある。


スラッとした長身で細身のスーツがよく似合ってるなぁってぼんやり見てたくらい。なので顔まではしっかり見た事がなかった。


て言うかこの状況、どうする?


こんな事なら昼休みにわざわざお蕎麦食べに来るんじゃなかった。


会社近くのカフェにでも行けば良かった。


と言ってもまぁ、行ける状態ではなかったんだけどね。