「そろそろ戻ります。本家もそのままにしてきてしまいましたから」


「すぐに戻った方がいいですよ。母上待望論も多くありますから」
 

紅緒は納得のいかない顔で黒藤を見返してから、手の中で術式を発動させた。
 

人を覆うほどの水鏡が出現して――普通の人には視えないもの――、紅緒は黒藤を振り返った。


「出来ることなら、お前も一緒に暮らしてほしいものです。本家でとは言わないから、考えておきなさい」
 

そのまま、水鏡の鏡面に姿を消した。
 

母の影までが鏡に呑まれると、水鏡は霧散した。


黒藤は術式の残滓を手中に収めて、握りつぶした。


「俺は一人のが合ってるんですよねえ」
 

白以外といるのは、なかなか苦手なんです。