「涙雨が、白桜に先触れをくれたからな。だが、いくら涙雨がいようと請負側としても、女性を夜道に歩かせるのは駄目だということで俺が遣わされた。
居住から姿を見せては説明が面倒だから、ここまで隠形していた」
すまんな、紅い髪の、黒藤とそっくりな青年は手を振った。
「え、と……ご存知かと思いますが、桜木真紅です」
「ああ。中へ入れ。天音が待ちくたびれている」
大きな木の門が開いた。
真紅のいる外側からは誰も手を触れていない。
ゆっくりと動くそれを見つめていると、向こうに頭(こうべ)を垂れた――女性がいた。
「ようこそいらせられました。真紅お嬢様」
そう言ってから顔をあげたのは、天女もかくやというほど麗しい女性だった。



