好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】



ふと、涙雨の声がした。


考えに浸って視界がぼんやりしている間に、涙雨は起きていた。


『白(しろ)の姫君のところへ、ゆかれるか?』


「る―――」
 

声に出しかけて、はっとつぐんだ。


涙雨の声は真紅にしか聞こえないのだが、真紅の声で母を起こしてしまうかもしれない。
 

涙雨は翼の先で、とんとんと自分の頭を叩いた。もしかして……


(るうちゃん、聞こえてるの?)
 

さっきまでと同じように頭の中で話しかける。


『真紅嬢が最初に涙雨に呼びかけてから考え始めたからな。申し訳ないが距離も近いゆえ届いてしまうのだ。

考えていることが筒抜けなわけではないから安心されよ。

それでだが、白の姫君のところへゆかれるか? 涙雨が案内(あない)するぞ』