ふと、涙雨の声がした。
考えに浸って視界がぼんやりしている間に、涙雨は起きていた。
『白(しろ)の姫君のところへ、ゆかれるか?』
「る―――」
声に出しかけて、はっとつぐんだ。
涙雨の声は真紅にしか聞こえないのだが、真紅の声で母を起こしてしまうかもしれない。
涙雨は翼の先で、とんとんと自分の頭を叩いた。もしかして……
(るうちゃん、聞こえてるの?)
さっきまでと同じように頭の中で話しかける。
『真紅嬢が最初に涙雨に呼びかけてから考え始めたからな。申し訳ないが距離も近いゆえ届いてしまうのだ。
考えていることが筒抜けなわけではないから安心されよ。
それでだが、白の姫君のところへゆかれるか? 涙雨が案内(あない)するぞ』



