桃太郎は瞼を伏せて、ピアスを触りながら口元を緩めた。
「初めて、だったんだ。誰かにかっけぇって言われたの。しかも、俺なんかよりも何億倍もかっけぇ人にだぜ?……なんか、すんげぇ嬉しくて、泣いちまったんだ」
たった一瞬の、たった一言で。
副総長は桃太郎を状況的にも精神的にも救ったんだ。
桃太郎が尊敬の意を込めて、副総長を「救世主」と呼ぶのもわかる。
でもね。
その全ては、桃太郎が勇気を振り絞ったところから始まったんだよ。
桃太郎は、そのことに気づいてるのかな。
「それからだ。俺が、凛さんを追いかけて神雷に入って不良になったのも、凛さんを誰よりも慕うようになったのも」
「辛い過去があったから、桃太郎の心はこんなにも強くなれたんだね」
こうやって、私に自分の過去をためらわずに語れて、弱さも辛さも傷も何一つ隠すことなく打ち明けられているのが、桃太郎が強いことを表す決定的な証。
誰もができることじゃないよ。
過去を受け入れた瞬間に、もっと自分のことが好きになる。
己を変えられた瞬間に、もっともっと自分に優しくなれる。



