「そんなこと言う奴、初めてだ……」
「そ?」
桃太郎は、やや俯いて、影を作った。
「俺は、可哀相でも惨めでもなかった」
「うん、そうだね。ただのいじりがいのあるチビだよね」
「んだよそれ!!」
過去を過去だと割り切っているなら、
そうやってうるさく反論できるなら、
他人に過去の自分を見せられるのなら。
同情だって思いやりだって、桃太郎にとっては何の意味も持たない。
この場限りの、ちっぽけな優しさでしかないんだ。
だから、私は心を軽くしたまま聞いていられる。
可哀相とか、惨めとか、憐れみとか、不幸とか。
それらがまとわりついた過去を、あくまで昔話として語っている、目の前の桃太郎を誰もいじめることはできないだろう。
いじりはするけれど。
過去は過去、今は今だ。



