BAD & BAD【Ⅰ】






「そんなこと言う奴、初めてだ……」


「そ?」



桃太郎は、やや俯いて、影を作った。



「俺は、可哀相でも惨めでもなかった」


「うん、そうだね。ただのいじりがいのあるチビだよね」


「んだよそれ!!」



過去を過去だと割り切っているなら、

そうやってうるさく反論できるなら、

他人に過去の自分を見せられるのなら。



同情だって思いやりだって、桃太郎にとっては何の意味も持たない。


この場限りの、ちっぽけな優しさでしかないんだ。



だから、私は心を軽くしたまま聞いていられる。




可哀相とか、惨めとか、憐れみとか、不幸とか。


それらがまとわりついた過去を、あくまで昔話として語っている、目の前の桃太郎を誰もいじめることはできないだろう。

いじりはするけれど。




過去は過去、今は今だ。