夏の暑さを紛らわせる夜風が、ザアッと音を立てて通り過ぎていく。



「俺さ、全然気づかなかったんだ。けど、幸珀が昔から知ってる“幸珀”だってわかったら、あぁやっぱりって思ったんだ。なんでかな」



口いっぱいに広がるチョコの甘さが、“あの日”の痛みを刺激する。




「幸珀は心配性で世話焼きだから、多分俺を心配して神雷に入ったんだろうな」


「罪悪感、感じてんのか?」


「うーん、ちょっと。でも、だからこそ、俺も幸珀のことが心配だし、戻ってきてほしいんだ」


「俺もだ」



「じゃあ同じだ」

「ああ、同じだ」




空っぽになったカップにほんのりと残っている甘美な香りが、宙を仰ぐ。


満月が遠い場所から、俺達に微笑みかけている気がした。




「もし……もしも、幸珀が戻ってきたら、パーティーしたいな」


「チョコケーキ食いてぇ」


「前食べた桃太郎のケーキ、すっごく美味しかったよね!俺もまた食べたいなあ」