「はぁ~~」



私はわざとらしくため息を吐き、ざわつきを遮った。


逃げていった幸せは、もう二度と私の元には帰ってこないのだろう。



それでもいい。

皆のところへ、行ってくれるなら。



私は私で、新しい幸せを捕まえる。


“あの日”から、そうやって過ごしてきた。


でも、なぜだろう。


“あの日”よりも今日の方が、胸が痛むのは。




「はい、そうですよ」



しゅるり、とゴムをとって髪をほどいた。


胸元まである自慢の黒髪が、艷やかになびく。



さすがにこれだけじゃ私が女だって信じてもらえないかもしれないけど、まいっか。



「師匠、私はあなたの知る“幸珀”です」


「……本当、なんだ」


「はい」



謝りたい。


ごめんって言いたい。



騙していてごめんって。